
第13部 付録第22章
最低限これだけ覚えればよい用語30選
LLMの話に出てくる言葉は何百とありますが、会話の8割はこの30語で回っています。第1章の「6つの層」ごとに、ひとことの説明と詳しい章へのリンクを並べました。
このページの内容(9項目)
英単語帳の最初の1ページだけ覚えれば、意外と会話になる。
LLMの用語も同じです。ここに挙げた30語を「だいたいこういう意味で、この層の仲間」と言えれば、ニュースも技術記事もぐっと読みやすくなります。1語あたり1分、全部で30分くらいが目安です。
読み方
各カードの「→」の先が、その言葉を詳しく説明している章です。まず基本の5語、そのあとは第1章の層の順(②学習 ③モデル ④形式 ⑤実行 ⑥アプリ)に並べています。最後に、覚えたかどうかを確かめるクイズがあります。
① まず押さえる基本(5語)
1. LLM 大規模言語モデル
大量の文章で学習し、「次に来るトークン」を予測し続けることで文章を生み出すモデル。チャットAIの頭脳部分。→ 第1章
2. トークン token
LLMが文章を扱うときの最小単位。単語や文字のかけらで、日本語では1文字が1トークン前後になることが多い。料金や長さの上限はトークン数で数える。→ 第2章
3. コンテキスト長 context length / context window
モデルが一度に読める入力(と出力)の長さの上限。会話の履歴も添付文書も、全部ここに収まる必要がある。→ 第2章・第15章
4. 温度 temperature
次のトークンを選ぶときの「ばらつき」のつまみ。低いと手堅く同じような答え、高いと多様だが脱線しやすい。→ 第2章
5. ハルシネーション hallucination
もっともらしいが事実と違う内容を、自信ありげに生成してしまう現象。LLMが「それらしい続き」を作る仕組みである以上、ゼロにはできない。RAGや検証で減らす。→ 第19章・第30章
② 学習(4語)
6. 事前学習 pre-training
膨大な文章で「次のトークン予測」をひたすら練習させ、言語や知識の土台を作る最初の学習。最もお金と時間がかかる段階。→ 第12章
7. ファインチューニング / SFT fine-tuning / supervised fine-tuning
できあがったモデルに、質問と模範解答の組などを追加で学習させ、特定の振る舞いを身につけさせること。SFTはその代表的なやり方。→ 第12章
8. 選好学習(RLHF / DPO) preference tuning
「AとBの回答、どちらが良いか」という人間などの好みをもとにモデルを調整する学習。役に立ち、安全な答え方を身につけさせるのに使われる。→ 第12章
9. LoRA ローラ / Low-Rank Adaptation
元の重みは凍結したまま、小さな追加の行列だけを学習する省エネな微調整法。成果物が小さく、付け外しできる。量子化と組み合わせたものがQLoRA。→ 第13章
③ モデル(6語)
10. パラメータ / 重み parameters / weights
学習によって決まる、モデル内部の膨大な数値。「8B」は約80億個という意味。モデルファイルの中身のほとんどはこれ。→ 第2章
11. トークナイザ tokenizer
文章をトークンに切り分け、番号(ID)に変換する道具。モデルとセットで使い、別のモデルのものとは基本的に交換できない。→ 第2章
12. Transformer トランスフォーマー
いまのLLMのほとんどが採用している構造。文中のどこに注目すべきかを計算する「アテンション(注意機構)」が中核。→ 第1章
13. MoE Mixture of Experts
たくさんの「専門家」ブロックを持ち、トークンごとに一部だけを使う構造。総パラメータは大きいのに、1トークンあたりの計算は軽い。→ 第26章
14. 推論モデル reasoning model
答える前に考える過程(思考トークン)を長く生成してから答えるモデル。数学やコードに強い一方、時間とトークンを多く使う。→ 第27章
15. マルチモーダル multimodal
文章だけでなく画像・音声・動画なども入力(や出力)できること。画像を読めるモデルはVLM(Vision Language Model)とも呼ぶ。→ 第29章
④ 形式と置き場所(4語)
16. Hugging Face ハギングフェイス
モデルやデータセットが集まる公開リポジトリ(Hub)と、それを使うためのライブラリ群を提供する企業・サービス。「モデルのGitHub」のような場所。→ 第3章
17. safetensors セーフテンソーズ
重みを安全かつ高速に読み込むためのファイル形式。読み込むだけで任意のコードが実行されてしまう危険がない。Hugging Face上の標準的な形式。→ 第4章
18. GGUF ジージーユーエフ
llama.cpp系のツールで使う1ファイル完結型のモデル形式。重み・トークナイザ・設定をまとめて持ち、量子化された重みを収められる。→ 第5章
19. 量子化 quantization
重みの数値を少ないビット数で表して、モデルを小さく速くする技術。16bitを4bit台にすると、重みのサイズはおよそ3分の1以下になる。→ 第10章
⑤ 実行(6語)
20. 推論ランタイム inference runtime / engine
モデルの重みを読み込み、実際に計算してトークンを出すソフトウェア。モデルが楽譜なら、ランタイムは演奏者。→ 第6章
21. llama.cpp
C/C++で書かれた軽量な推論ランタイム。CPUでもGPUでも動き、ローカルLLMの土台として多くのツールに組み込まれている。→ 第7章
22. Ollama オラマ
コマンド1つでモデルのダウンロードから実行までできる、ローカルLLMの定番ツール。ほかのアプリから呼べるAPIサーバーにもなる。→ 第8章
23. vLLM
大勢のリクエストを同時に効率よくさばくための、サーバー向け推論エンジン。PagedAttentionというメモリ管理の工夫で知られる。→ 第9章
24. KVキャッシュ KV cache
過去のトークンについての計算結果(KeyとValue)を保存しておき、毎回計算し直さずに済ませる仕組み。文脈が長いほどメモリを食う。→ 第15章
25. VRAM GPUメモリ
GPUに載っている専用メモリ。「重み+KVキャッシュ」が収まるかどうかで、そのGPUで動かせるモデルの大きさが決まる。Apple Siliconなどではメインメモリと共有。→ 第17章
⑥ アプリ(5語)
26. RAG 検索拡張生成
質問に関係する文書を検索して入力に添え、それを根拠に答えさせる仕組み。モデルを学習し直さずに最新情報や社内文書を扱える。→ 第19章
27. 埋め込み embedding
文章の意味を数百〜数千次元の数値ベクトルに変換したもの。意味が近い文章ほどベクトルも近くなるので、意味で検索できる。→ 第19章
29. MCP Model Context Protocol
AIアプリと外部のツールやデータをつなぐための共通規格。2024年11月にAnthropicが公開し、2025年12月からはLinux Foundation傘下の団体(Agentic AI Foundation)が管理している。対応サーバーを差し込めば、いろいろなAIアプリから同じ道具を使える。→ 第20章
30. ベンチマーク benchmark
モデルの能力を比べるための共通テスト。便利だが、問題の丸暗記(汚染)や満点続出(飽和)の問題があり、数字だけで判断するのは危険。→ 第30章
30語を「1枚の図」にすると
flowchart TD D["事前学習・SFT・LoRA"] --> W["重み+トークナイザ
MoE・推論モデル"] W --> F["safetensors・GGUF
量子化"] F --> R["ランタイム
llama.cpp・Ollama・vLLM"] R --> H["GPU・VRAM
KVキャッシュ"] R --> A["アプリ
RAG・エージェント・MCP"]
30語チェック
Q4. safetensors と GGUF、どちらも「ファイル形式」。いちばん大きな使われ方の違いは?
safetensors は主に Hugging Face の transformers や vLLM などで使う、重みだけを入れる形式(設定やトークナイザは別ファイル)。GGUF は llama.cpp 系で使う、重み・トークナイザ・設定を1ファイルにまとめた形式で、量子化された重みを収めるのが一般的です。
この章のまとめ
- 30語を6つの層に分けて覚えると、「何と何を比べているのか」を取り違えにくい
- メモリの話は「重み(量子化で減る)」と「KVキャッシュ(文脈で増える)」の2本立て
- モデルを変えずに知識を足すならRAG、振る舞いを変えるならファインチューニング
さらに深く学ぶ
この章の内容をもう一歩掘り下げるための原典です。
- Attention Is All You NeedいまのLLMの土台であるTransformerを提案した論文。再帰をやめてアテンションだけで系列を扱う発想が、大規模化への道を開きました。
- LoRA: Low-Rank Adaptation of Large Language Models元の重みを固定し、小さな低ランク行列だけを学習するLoRAを提案。微調整を一気に身近にした論文です。
- Retrieval-Augmented Generation for Knowledge-Intensive NLP Tasks検索した文書を生成モデルに渡して答えさせる「RAG」という名前と枠組みを提案した論文。
出典・参考
- Anthropic, “Introducing the Model Context Protocol” — 2024年11月25日公開
- Anthropic, “Donating the Model Context Protocol and establishing the Agentic AI Foundation”(2025年12月)
- Kwon et al., “Efficient Memory Management for Large Language Model Serving with PagedAttention” (2023), arXiv:2309.06180
- Hu et al., “LoRA: Low-Rank Adaptation of Large Language Models” (2021), arXiv:2106.09685
- Hugging Face, safetensors ドキュメント(2026年10月確認)
- ggml-org/ggml, GGUF 仕様(docs/gguf.md)(2026年10月確認)
各用語の詳しい出典は、リンク先の各章末にあります。