
第12部 混乱しやすい比較特集第21章
よく混同される用語まとめ
GGUFとsafetensors、量子化と蒸留、エージェントとワークフロー……。似ているようで違う用語を「どっちがどっち?」形式で一気に整理します。
「Ollamaで動くGGUFのモデルを、LoRAで量子化した」。どこがおかしいでしょう?
答えは「LoRAで量子化」です。LoRAは追加学習のやり方で、量子化は軽くするやり方。この文はそもそも混ざっています。LLMの世界には、こういう「似た場所に出てくるけれど役割が違う」用語がたくさんあります。この章では、それを2〜3語ずつ並べて、どっちがどっちかをはっきりさせます。
ひとことで言うと
迷ったら「それはモノか、形式か、道具か、やり方か」を考える。カテゴリが違えば、比べる相手を間違えているサインです。
モノとファイル
モデル vs 重み vs チェックポイント
| 用語 | ひとことで | たとえ |
|---|---|---|
| モデル | 構造(アーキテクチャ)と重みを合わせた「動く仕組み」全体 | レシピと材料がそろった料理 |
| 重み(weights) | 学習で決まった数値の集まり | 計量済みの材料 |
| チェックポイント | ある時点の重みなどを保存したファイル | 途中経過のセーブデータ |
見分け方: 「ファイルとして保存した、ある時点の重み」ならチェックポイント。日常会話では3つともまとめて「モデル」と呼ばれがちです。詳しくは第2章。
GGUF vs safetensors
| GGUF | safetensors | |
|---|---|---|
| 主な居場所 | llama.cpp・Ollama・LM Studio | Hugging Face の transformers など |
| 中身 | 重み+トークナイザやチャットテンプレートなどのメタ情報を1ファイルに | 重み(テンソル)を安全に保存。設定は別ファイル |
| 量子化 | Q4_K_M などの量子化済みで配られることが多い | 16bit の元の重みで配られることが多い |
見分け方: どちらも「ファイル形式」。ローカル実行向けの単体ファイルならGGUF、学習・研究向けの元の重みならsafetensors。第4章・第5章へ。
軽くする3つの方法
量子化 vs 蒸留 vs 枝刈り
| 方法 | 何をする? | たとえ |
|---|---|---|
| 量子化(quantization) | 重みの数値を少ないビット数で表す | 写真の色数を減らして容量を小さく |
| 蒸留(distillation) | 大きいモデル(先生)の出力を手本に小さいモデル(生徒)を学習 | ベテランの答え方を新人がまねて覚える |
| 枝刈り(pruning) | 効きの弱い重みや部品を取り除く | 庭木の不要な枝を切る |
見分け方: パラメータ数が変わらず「1個あたりのビット数」が減るなら量子化。モデルそのものが別の小さいモデルになるなら蒸留。中身を間引くなら枝刈り。量子化は第10章で。
動かす道具
llama.cpp vs Ollama
| llama.cpp | Ollama | |
|---|---|---|
| 正体 | 推論エンジン(C/C++のライブラリとツール群) | モデル管理と実行をまとめたアプリ |
| 得意 | 細かい設定、幅広いハードウェア対応 | ollama run モデル名 で即会話 |
| たとえ | 車のエンジン | エンジンを積んだ完成車 |
見分け方: フラグを細かくいじりたいなら llama.cpp、とにかく動かしたいなら Ollama。Ollama の README は謝辞で llama.cpp を挙げています。第7章・第8章へ。
ランタイム vs UI
| ランタイム(推論エンジン) | UI | |
|---|---|---|
| 仕事 | 重みを読み込み、トークンを計算して出す | 人が入力し、結果を見る画面 |
| 例 | llama.cpp、vLLM、MLX-LM | Open WebUI などのチャット画面 |
見分け方: 画面を閉じても動き続けるのがランタイム。LM Studio のように両方を1つにまとめたアプリもあるので、混ざりやすいのです。第6章へ。
学習 vs 推論
| 学習(training) | 推論(inference) | |
|---|---|---|
| 何をする | データから重みを決める・更新する | 決まった重みで答えを出す |
| 重みは | 変わる | 変わらない |
| たとえ | 受験勉強 | 本番の試験 |
見分け方: 使ったあとに重みが変わっていれば学習、変わっていなければ推論。ChatGPT に話しかけるのは推論です。第12章へ。
モデルを「自分用」にする
ファインチューニング vs RAG vs プロンプト
| 方法 | 変えるもの | 向いていること |
|---|---|---|
| プロンプト | 入力の書き方だけ | まず試す。口調・形式・手順の指定 |
| RAG | 入力に、検索した資料を足す | 社内文書や最新情報に基づく回答 |
| ファインチューニング | 重みそのもの | 独特の文体・形式・振る舞いを身につけさせる |
見分け方: 「知識を足したい」ならまずRAG、「癖や型を覚えさせたい」ならファインチューニング。どちらの前にもプロンプトの工夫を試します。たとえるなら、プロンプトは指示書、RAGは持ち込み可の資料、ファインチューニングは研修です。第19章・第12章へ。
LoRA vs QLoRA
| LoRA | QLoRA | |
|---|---|---|
| やること | 元の重みは固定し、小さな追加行列だけ学習 | LoRAと同じ。ただし元の重みを4bitに量子化して載せる |
| うれしさ | 学習する量と保存サイズが小さい | さらに少ないGPUメモリで学習できる |
| 提案 | Hu ら(2021) | Dettmers ら(2023) |
見分け方: QLoRA の Q は量子化(Quantized)。「LoRA + 4bitで載せた土台」です。第13章へ。
数字の読み方
パラメータ数 vs 総パラメータ / アクティブパラメータ
| 用語 | 意味 | 効いてくるもの |
|---|---|---|
| 総パラメータ | モデルが持つ重みの総数 | 必要なメモリ |
| アクティブパラメータ | 1トークンの計算で実際に使う重みの数 | 計算量・速度 |
普通の(dense)モデルでは2つは同じです。違いが出るのは MoE(Mixture of Experts)。たとえば gpt-oss-20b は総パラメータ約210億、アクティブ約36億です。Gemma 4 の「26B A4B」のような名前の A は Active を表します。
見分け方: メモリの見積もりには総パラメータ、速さの見積もりにはアクティブ。第26章へ。
コンテキスト長 vs 出力長
| コンテキスト長 | 最大出力長 | |
|---|---|---|
| 意味 | 一度に扱えるトークンの総量(入力+出力) | 1回の返答で生成できるトークン数の上限 |
| たとえ | 机の広さ | 1回に書ける答案用紙の枚数 |
見分け方: 「長い資料を読めるか」はコンテキスト長、「長い文章を一気に書けるか」は出力長。「256K対応」でも、出力は別の上限で止まることがあります。ローカルでは、ツールの既定値がモデルの最大値より小さいこともあります(第23章)。
トークン vs 文字
| トークン | 文字 | |
|---|---|---|
| 誰の単位 | モデル(トークナイザ)の単位 | 人間の単位 |
| 数え方 | トークナイザごとに違う | 見たまま |
見分け方: 料金・コンテキスト長・速度(tokens/s)はトークンで数えます。同じ日本語の文でも、トークナイザが違えばトークン数は変わります。第2章へ。
エージェントまわり
エージェント vs ワークフロー
| ワークフロー | エージェント | |
|---|---|---|
| 手順を決めるのは | 人が書いたコード(決まった道筋) | LLM自身(状況を見て次を決める) |
| たとえ | レシピどおりに作る | 冷蔵庫を見て献立から考える |
| 向き | 手順が決まっていて予測しやすさが大事 | 手順を事前に決められない作業 |
この区別は Anthropic の記事「Building effective agents」の定義に沿っています。そこでは両方をまとめて「エージェント的なシステム」と呼んだうえで、道筋が事前に決まっているかで分けています。
見分け方: 「次に何をするか」を誰が決めるか。第20章・第28章へ。
MCP vs function calling vs API
| 用語 | ひとことで | たとえ |
|---|---|---|
| API | ソフト同士が呼び合う窓口全般 | お店の注文カウンター |
| function calling(ツール呼び出し) | LLMが「この関数をこの引数で呼んで」と構造化して出力する仕組み | 店員への注文票の書き方 |
| MCP | AIアプリと外部のツール・データをつなぐ共通規格 | AIアプリ用のUSB-C |
見分け方: function calling は「モデルが呼び出しを頼む」話。MCP は「どのツールをどうつなぐか」の共通規格。実際に関数やAPIを実行するのは、どちらの場合もアプリ側です。MCP は2024年11月に Anthropic がオープンソースで公開し、公式サイトは「AIアプリケーションのためのUSB-Cポート」とたとえています。
ラベルの読み方
オープンウェイト vs オープンソース
| オープンウェイト | オープンソースAI(OSAID) | |
|---|---|---|
| 公開されるもの | 重み(ライセンスはさまざま) | 重み・学習と推論のコード・学習データの詳しい情報 |
| 条件 | 利用制限つきのこともある | OSI承認の条件で、使う・調べる・改変する・共有する自由 |
OSI(Open Source Initiative)は2024年10月28日に「Open Source AI Definition(OSAID)」1.0を公開しました。そこでは、改変に必要な形として「データ情報(Data Information)」「コード」「パラメータ」の3つを求めています。
見分け方: 重みだけなら「オープンウェイト」。重みが Apache 2.0 のような寛容なライセンスでも、学習データの情報やコードがそろっていなければ OSAID の意味での「オープンソースAI」にはなりません。宣伝文の「open-source」は、この定義と違う意味で使われることもあります。第3章へ。
ベース vs インストラクト vs 推論(reasoning)モデル
| 種類 | 特徴 | 名前の手がかり |
|---|---|---|
| ベース(base) | 事前学習だけ。文章の続きを書く | -Base、-pt |
| インストラクト(instruct) | 指示に従って答えるよう調整済み | -Instruct、-it、-Chat |
| 推論モデル | 答える前に考える過程を生成する | thinking モードや推論の強さ(effort)の設定 |
見分け方: 質問に答えず続きを書き出したらベース。最近は1つのモデルで考える・考えないを切り替えられるものも多く、gpt-oss は推論の強さを low / medium / high で選べます。第27章へ。
ベンチマーク vs 実力
| ベンチマークの点数 | あなたの用途での実力 | |
|---|---|---|
| 測るもの | 決まった問題集での成績 | 自分のデータ・言語・作業での使い勝手 |
| 落とし穴 | 問題が学習データに混ざる(汚染)、満点近くで差が出ない | 試さないとわからない |
見分け方: ベンチマークは模試の偏差値、実力は本番の仕事ぶり。候補を絞るのに点数を使い、最後は自分の課題で試します。第30章へ。
よくある誤解
GGUFにすると自動的に量子化される
GGUFは入れ物。16bitのままのGGUFもある。量子化はQ4_K_Mなどの別の話
ファインチューニングすれば最新知識を覚えてくれる
頻繁に変わる知識はRAGのほうが向く。微調整が得意なのは型や振る舞い
20Bのモデルなら毎回20B分の計算をしている
MoEならアクティブ分だけ。gpt-oss-20bは1トークンあたり約36億
確認クイズ
Q1. 冒頭の「LoRAで量子化した」を正しく言い直すと?
たとえば「QLoRAで微調整した(土台を4bitに量子化して載せ、LoRAで学習した)」、または「量子化したGGUFにLoRAアダプタを当てた」。量子化と追加学習は別の操作です。
この章のまとめ
- まず「モノ・形式・道具・やり方」のどれかを考えると、比べる相手を間違えない。
- GGUFとsafetensorsは形式、Q4_K_Mは量子化方式、llama.cppはエンジン、Ollamaはそれを使いやすくしたアプリ。
- 知識を足すならRAG、癖を覚えさせるならファインチューニング、その前にプロンプト。
- MoEはメモリに総パラメータ、速度にアクティブパラメータが効く。
- 「オープン」はラベルを確認。重みだけならオープンウェイト。
さらに深く学ぶ
この章の内容をもう一歩掘り下げるための原典です。
出典・参考
- The Open Source AI Definition 1.0(OSI) — 4つの自由、Data Information / Code / Parameters の要件(2026年10月確認)
- OSI: OSAID 1.0 公開の発表(2024年10月28日)
- Anthropic「Building effective agents」 — ワークフローとエージェントの区別
- Anthropic「Introducing the Model Context Protocol」(2024年11月25日) / What is the Model Context Protocol (MCP)? — USB-Cのたとえ(2026年10月確認)
- openai/gpt-oss-20b モデルカード — 総パラメータ21B・アクティブ3.6B、推論の強さ設定(2026年10月確認)
- Ollama library: gemma4 — Gemma 4 26B(MoE、アクティブ4B)(2026年10月確認)
- Hu et al. (2021) LoRA: Low-Rank Adaptation of Large Language Models
- Dettmers et al. (2023) QLoRA: Efficient Finetuning of Quantized LLMs
- Hinton et al. (2015) Distilling the Knowledge in a Neural Network
- ollama/ollama(GitHub) / ggml-org/llama.cpp(GitHub)(2026年10月確認)