同じ二重振り子を2本(A:青、B:赤)用意し、下の振り子の初期角 θ2(0) だけを Δθ0 だけずらして同時に放します(l1 = l2 = 1.0 m、m1 = 1.0 kg、初速度 0、θ2(0) = θ1(0)+(Bのみ)Δθ0、g = 9.81 m/s²)。右(縦長画面では下)のグラフは、2本の角度差 d = |Δθ1|+|Δθ2|(角差は −π〜π に折り返し)を縦軸だけ対数にして時間に対してプロットしたものです。縦軸は自動スケールです。
カオス系では、近い2つの軌道の差が平均的に d(t) ≈ Δθ0·eλt のように指数関数的に広がります。λ > 0 がリアプノフ指数(最大リアプノフ指数)です。対数軸では ln d ≈ ln Δθ0 + λt となるので、グラフは右上がりの直線になります(細かい凸凹は振り子の振動による揺らぎ)。差が振り子の角度そのものの大きさ(数 rad)に達すると、それ以上は広がりようがなく飽和し、横ばいになります。ここから先、AとBはまったく別の運動をしています。HUDの「推定λ」は、d が 0.05 rad 未満の区間の ln d を最小二乗で直線近似した傾き(目安)です。Δθ0 を 1/10 にしても、飽和までの時間は ln10/λ ほどしか延びません ― これが「予測可能時間は初期誤差を減らしても対数的にしか伸びない」というバタフライ効果の本質です。
下の振り子が非常に軽い(m2 ≪ m1)と、上の振り子はほぼ単振り子として規則正しく揺れ、下の振り子はそれに強制される「軽いおもり」として振る舞います。結合が弱まるので、運動は準周期的(いくつかの周期の重ね合わせ)に近づき、カオス領域が狭くなることが知られています。θ1(0) = 120〜170° で m2/m1 = 1 → 0.05 と切り替えて比べると、角差の伸びが緩やかになり(グラフの傾き=推定λが小さく、2本が長く重なったまま)、この傾向が見えます(このシミュレーションでの目安:Δθ0 = 10⁻⁴ rad から 0.5 rad に達するまで、θ1(0)=150° で m2/m1=1 なら約 5.5 s、0.05 なら約 8.7 s;170° では約 3.4 s と約 12.8 s)。灰色の前回曲線と比べてみましょう。
正直な注意(この実験の前提):ここでは l1 = l2 なので、軽い下振り子の固有振動数が上の振り子とほぼ一致し、下振り子は「共振的に揺すられる」状態になります。そのため θ1(0) = 40〜60° のような小振幅でも、m2/m1 = 0.05 だと軽い下振り子だけが大きく振れて回転し始め、時間がたつと角差が飽和することがあります(逆に m2/m1 = 1 の小振幅ではほぼ規則運動)。このモデルで m2 ≪ m1 による弱まりがはっきり見えるのは大振幅(θ1(0) が大きい)での分離の速さであり、どの初期条件でも規則運動になるわけではありません。ここでは結果を作り込まず、正しい運動方程式の結果をそのまま表示しています。
運動方程式は、ラグランジアン L = T − V
からオイラー=ラグランジュ方程式を立てて θ1'', θ2'' について解いた連立2階常微分方程式です(δ = θ1−θ2, D = 2m1+m2−m2cos2δ)。
これを 4次ルンゲ=クッタ法(RK4)で、固定刻み dt = 1 ms、1回の積分処理あたり 16 サブステップ以上(実時間×再生速度に合わせて増やす。スロー再生では数フレーム分ためてからまとめて 16 ステップ以上進める)で積分しています。陽的オイラー法は1ステップごとにエネルギーを系統的に増やしてしまい、振り子が勝手に勢いを増すため使いません。RK4 も陽的スキームなので厳密にはエネルギーを保存しませんが、誤差は dt⁴ に比例し、1 ms 刻みではエネルギー保持率は数分でも ±0.01% 程度以下に収まります(HUDで確認できます)。エネルギー保持率は (E−E0)/(E0−Emin) で表示しています(Emin は両おもりが真下で静止したときのエネルギー。E0 そのものが 0 付近になる初期角でも比が発散しないようにするため)。
ただし注意:カオス系ではどんな高精度スキームでも、個々の軌道は有限時間しか正しく追えません。1ステップの丸め誤差(約 10⁻¹⁶)や打ち切り誤差も eλt で拡大されるからです。dt や積分法を変えると、飽和後のAやBの具体的な動きは変わってしまいます。一方、エネルギー保存や λ の大きさ、「指数成長→飽和」という統計的な性質は信頼できます。シミュレーションで正しいのは「軌道そのもの」ではなく「軌道の性質」なのです。